Google Antigravity の登場で脱WordPressが現実味を帯びてきた
2025-12-01(月)はじめに:脱WordPressは「思想」ではなく「運用コスト」の話になった
「WordPressをやめたい」は、しばしば宗教論争みたいに扱われますが、現実はもっと事務的です。
更新・セキュリティ・プラグイン互換・表示速度・バックアップ・脆弱性対応。これらの運用コストが積み上がると、ブログは「書く」より「守る」時間が増えます。
一方で、脱WordPressの受け皿はずっと前から存在していました。代表格が SSG(Static Site Generator) と ヘッドレスCMS です。
脱WordPressの有力候補:SSGかヘッドレス
1) コストを抑えるならSSG
SSGは、ビルドして静的ファイル(HTML/CSS/JS)を配信します。
サーバーが重い処理をしないので、表示が速く、セキュリティ面も比較的ラクです。Cloudflare Pages や GitHub Pages のような静的ホスティングと相性が良く、運用費も抑えやすいです。
ただし、SSGはだいたい次の作業が発生します。
- コマンド実行(Node.js / npm / build)
- Git操作(commit / push / branch)
- Markdown作成(Front Matter、見出し構造、画像パス、リンク整形)
- デザイン調整(CSS、テンプレート、レイアウト崩れ)
要するに「エンジニアの当たり前」が、そのまま参入障壁になります。
2) 非エンジニアに優しいのはヘッドレス
ヘッドレスCMSは、管理画面(CMS)と表示(フロント)を分離します。書く体験が整っていて、複数人運用もしやすいです。
ただし、月額費用が発生しがちで、画像やAPIリクエストで従量課金になるケースもあります。小さく始めたい個人ブログだと、心理的ハードルが出ます。
「SSGが難しい」を解決するのがAIエージェント
これまでSSGの弱点は、技術的な作業が「人間の手」で必要だったことです。
ところが、AIエージェントが “実作業” を肩代わりし始めると、状況が変わります。
- コマンド実行を代行する
- Git操作を代行する
- Markdownの雛形を作る
- 既存記事の移植・整形をする
- デザイン崩れを画面で確認して直す
つまり、SSGの障壁だった「面倒な手作業」を、文章で指示できるようになります。
今回の本題:Google Antigravity が「脱WordPressの現実度」を上げた
Google Antigravity は、いわゆる “AIエディタ” のカテゴリーに入りますが、ポイントは「チャットが賢い」ではありません。
エージェントがIDEの中で作業者として振る舞うところです。
Antigravityで起きることは、ざっくり言うと次の通りです。
- エージェントがタスクを分解して計画を作る
- エディタ上でファイルを編集する
- ターミナルでコマンドを実行する(許可制)
- ブラウザ操作も含めて検証する
- 作業の根拠を“Artifacts”として残す(やったことの証跡)
ここが重要で、SSG運用に必要だった「コマンド・Git・CSS」の部分が、自然言語の指示で前に進むようになります。
何が嬉しいのか:SSG移行の「つまずきポイント」を直撃している
1) いきなり最小構成を作って動かせる
例えば 11ty(Eleventy)でブログを作る場合、通常は以下を人間がやります。
- package.json を作る
- テンプレートやレイアウトを組む
- 記事一覧と記事ページのルーティングを作る
- ビルド成果物の出力先を整える
- Cloudflare Pages のビルドコマンドに合わせる
Antigravityに「最小の11tyブログを作って、ビルドが通るところまでやってください」と投げると、エージェントが一気通貫で進める世界観になります。
人間はレビューと微調整に集中します。
2) デザイン崩れを直す速度が変わる
SSGはちょっとしたCSS調整で詰まります。
余白・見出し・コードブロック・スマホ表示・OGPカード…このあたりが遅い。
Antigravityは、IDEと(必要なら)ブラウザ操作まで含めて、見た目の修正を繰り返せます。
「この余白を詰める」「見出しの階層でフォント差を出す」「記事カードを2カラムにする」みたいな指示が、そのまま修正作業に直結します。
3) Git push までを“作業”として扱える
SSG最大の障壁は、最後の最後に出てくる Git です。
- 何をcommitするのか
- どのブランチか
- ビルドが落ちたらどこを見るのか
- 間違えて秘密情報を入れていないか
Antigravityの価値は、ここを「手順」ではなく「作業単位」で進められる点にあります。
もちろん許可制・レビュー前提にすると安全性も上がります。
学び方の順序が変わる:基礎より先に、応用から始められる時代へ
今までは、基礎から固めて応用に進むのが正攻法でした。
SSGなら「Node/npm → Git → Markdown → テンプレート → デザイン → デプロイ」という順序で理解を積み上げるのが安全だったからです。
ただ、AIエージェントの登場で、この順序が現実的に崩れ始めました。
言い換えると 「まず応用を動かして、必要になった基礎だけ後から埋める」 という学び方が成立します。
たとえば、最初の一歩はこうなります。
- 「ブログをSSGで公開する」というゴールだけ決める
- エージェントに雛形生成・ビルド・デプロイまでを進めてもらう
- 途中で出てきたエラーを“教材”にして、必要な範囲だけ理解する
- 見た目や記事の書き方を直しながら、自然に知識が増える
この進め方は、基礎を軽視するという話ではありません。
基礎の学習を“前提条件”から“必要条件”に変えるということです。
結果として、非エンジニアでも「運用に耐える形」まで到達しやすくなり、エンジニアにとっても「初期構築の摩擦」が減ります。
脱WordPressは「理解してから始める」から、「始めてから理解する」へ寄っていきます。
ただし注意点:AIエージェントで“簡単”になるほど、リスクも寄る
便利さの裏側には管理ポイントがあります。
- ターミナル実行権限をどこまで与えるか
- secrets(APIキー等)を誤ってコミットさせない運用
- 生成物の著作権・ライセンス(テンプレやコード片の取り扱い)
- SEOの基本(重複、構造化、canonical、サイトマップ)
- 依存パッケージの更新(SSGは放置すると将来詰まる)
「作業が速い=レビューの重要度が上がる」ので、Human-in-the-Loopの設計が実務的です。
結論:脱WordPressは「できるか」ではなく「続くか」の問題になった
SSGは昔から最有力でした。ただ、難しさが“学習の壁”として残っていました。
Google Antigravity のようなエージェント型IDEが登場すると、その壁が「作業委譲」に置き換わります。
- エンジニアは速度が上がる
- 非エンジニアは入口が広がる
- チームは運用の標準化がしやすくなる
脱WordPressは、思想ではなく運用設計の話に落ちてきました。
2025年はその転換点になり得ます。